寝室まで来ると、万丈目はオレの腕を強く引いてくる。
オレは逆らえきれずバランスを崩し、ベッドに倒れ込んだ。

「痛・・・ッ」

荒々しく服を脱がされる。

「ひぃぁ・・・ッ・・・痛・・・ッ」

万丈目の手が腹に食い込んでくる。
痛みで視界が歪んだ。
涙が頬を伝い、とめどなく流れ落ちる。
酸素が痛みで上手く吸えず、喉が変な音を立てた。
万丈目はオレが抵抗しないようにと、急所一つ一つを的確に押さえてくる。
痛みから逃れようと頭を振ると、噛み付くようなキスがオレを襲った。

「ん・・・ふぅ・・・ぅ・・・」
「ふ・・・ん・・・ぅ・・・」

咥内を蹂躙する万丈目の舌。
縦横無尽にオレを貪り、食らい尽くしていく。
顔を背け、逃れようとしても万丈目が許してくれない。

「逃がさない・・・」

唇を離し、小さく万丈目が囁いた。
体ごと圧し掛かられ、顔を万丈目の両腕に挟まれ固定される。

「何で・・・、こんな・・・」

圧し掛かってくる万丈目の表情は逆光で見えない。
ただ、唇だけが妖しく艶めいて見えた。

「好き・・・なんだよ」
「え・・・?」

万丈目が小さく何かを呟いた。
手が胸の隆起をまさぐる。
胸の突起を軽く擦られ、妙な感覚が体に走った。
疼くような・・・くすぐったいような・・・快感とも言いがたい説明の出来ない感覚。
驚いて万丈目の手を止めようとしても腕を抑えられて、動かす事もままならない。

「うわ・・・ぁ・・・ふ・・・ぅ・・・」

胸を弄っていた万丈目の手が、徐々に下りてくる。
胸から、腰、そして・・・
足の付け根へと移動してきた。

「あ・・・やぁ・・・、やめ・・・」
「なんだ・・・、濡れてるじゃないか」

興奮したように万丈目の体温が上昇したのが分かった。
ぴちゃぴちゃと小さな水音をわざと立たせ、万丈目は笑う。
始めて見る万丈目の淫蕩な笑顔が胸を疼かせた。
何だ・・・これ?
胸の疼きの理由が分からない。

「ひぃ・・・あ・・・はぁ・・・は・・・」

ただ、その疼きを自覚した事で体がひどく敏感になったのは分かった。
万丈目の一つ一つの動作がオレを翻弄し、得体の知れない感覚へと陥れようとする。

「もう・・・ッ、やめ・・・」

下腹を這うように撫でながら、指先が茂みの奥に侵入し濡れた淫猥な音を立てている。

「十代・・・じゅう・・・だい・・・」

耳元で熱く囁かれる。
万丈目の吐息が、オレの鼓膜を震わせ灼いていく。


くちゅ・・・。


耳に生温かい触感。
湿った音が聞こえ、体が大きく震えた。

「な・・・に?・・・ひゃ・・・くぅ・・・」

耳を万丈目が舐る。
舌が耳を蹂躙し、耳たぶを食む。

「好きなんだ・・・十代」

低く万丈目が囁いてくる。

「好きなんだよ、十代・・・ッ!」
「まんじょう・・・め?」

顔を上げ、オレを見下ろしてくる万丈目の表情は真剣で真っ直ぐだ。
その目は赤く潤み、オレを物欲しげに見てくる。

「俺を・・・拒絶しないでくれ・・・。ずっと、・・・俺・・・、お前の事が・・・」
「あ・・・、まん・・・じょう・・・?んぅ・・・ッ!」

撫で上げるだけだった指が突然、ずずず、と、深い場所へ沈み込み異物感が襲う。
痛みで喘ぐと、万丈目が悲鳴を封じるように唇を重ねてきた。


苦しい。


自分の感情を無視されて、行われるこの行為がひどく悲しく感じる。
オレの気持ちを聞かず、一方的に自分の感情を押し付けるばかりの行為が胸を引き裂く程痛く苦しい。
苦しくて息を吐き出そうとしているのに、万丈目はそれさえも封じてくる。
オレの気持ちは昇華されず、ただ体の中で渦を巻き、荒れ狂うばかりだ。


苦しくて、痛い。

そして・・・、辛い。


「あ・・・はぁ・・・はぁ・・・、うぅん・・・」
「・・・誰にも渡したくない」

唇を離され、万丈目がオレに呟いた。
指は未だに中で何か別の生き物のように好き勝手に蠢いている。

「どう・・・して、オレ・・・を・・・す・・・きなら・・・」

何で、こんな事を・・・。
そう言うと、万丈目はゆっくりと頭を振った。

「なら・・・、十代。・・・俺が普通に好きだって言えば、受け入れてくれたか・・・?」

・・・分からない。
正直に伝えると、万丈目は泣き笑いのような表情を浮かべた。

「分かってるんだ。・・・十代が、カイザーを好きだって・・・。上司と部下・・・。それ以上の感情があるんだって・・・」

違う!
カイザーとは、そんな・・・。
そんな関係じゃ・・・。
そう言おうと口を開いたが、万丈目が何も言うなと頭を振った。

「分かってる・・・。分かってるんだ・・・。でも・・・、俺は・・・」

万丈目が口を開くたび、胸が痛くなる。
一言漏らすたびに、軋むような痛みが心臓を突き刺す。

「まんじょう・・・あ・・・くぅッ」

胎内から指が引き抜かれる。
さっきまではただの痛みでしかなかったのに、今では何か空虚さを感じた。
万丈目の息が上がっていく。
足を高く抱え上げられ、万丈目がこれから何をしようとしているのか、何がしたいのか理解した。

「まさ・・・か・・・。おいッ、万・・・んぅ・・・ぐ・・・」

さっきまで万丈目の指が入れられていた場所に、熱いものが押し込まれていく。
メリメリと体内から嫌な音が聞こえる。
引き裂かれる痛みに体中から悲鳴が聴こえた。

「ひぃ・・・ぃ・・・痛・・・い・・・」
「すまない・・・十代・・・。すまん・・・ッ」

万丈目が謝罪の言葉を口にしながら体を進めてくる。
手足が指先まで硬直し、何かに縋る事も出来ない。
涙で視界が霞み、痛みが喉を焼く。
大きく開いた口が、空気を求めた。

「は・・・ぁ・・・っツ・・・」
「好き・・・なんだ。誰にも・・・渡したくない・・・ッ」

腰を進めながら、万丈目が呻いた。
オレの頬を流れる雫を舌で掬い取り、何度も唇を重ねてくる。
オレは痛みに体を強張らせながらも万丈目の背中に手を回した。
グチャッと嫌な音が結合部分から聞こえる。
万丈目が腰を動かすたびに、痛みと何とも言えない感覚がオレを支配し翻弄していく。
その度に、万丈目の背中に爪を立てた。

「抜い・・・て。・・・おねが・・・くぅ・・・」

肺が大きく膨らみ、すぐにしぼむ。
呼吸をするだけで、中にある万丈目の形がリアルに感じられた。
嘆願するような切れ切れの言葉が余計に万丈目の劣情をくすぐるのか、いっそう激しく打ち付けてくる。


どうして・・・。


揺さぶられる体。
そこにオレの意思はなく、荒い息だけが世界を支配する。

「おねが・・・ッ・・・」

喉から搾り出される掠れた声。
自分の声だとは信じたくない位に弱弱しい声だった。

「ん・・・ゃッ・・・」

万丈目の指が、オレの両の乳房を撫で擦るように揉んだ。
不器用な指がゆっくりと固く尖った乳首を弄る。


痛みとは違う快楽。


息を呑み込み、オレはその快楽から逃れようと体を動かした。
だが、体は意思に反して万丈目を放すまいと絡み付いていく。
もっと、欲しい・・・。
そう言うように、淫らに収斂(しゅうれん)し万丈目を奥へと誘い込む。

「じゅう・・・だい?」

オレの豹変に万丈目が気付き、体の奥へと熱い塊を打ち込んできた腰の動きが止まる。
だが、手はいやらしく柔肌を味わうように胸を愛撫し続け、動きを止める気配はなかった。

「やぁ・・・ッ。そこ・・・さわ・・・るな・・・ぁ!」

万丈目の指が乳房をぐっと絞り上げるたびに妙な感覚が全身を支配する。
淡く色づいた乳輪を舌先で辿り、ぬるりと先端を弾かれた時、甘い痺れが全身を襲った。
強姦のようなこの状況で、こんなにも感じているなんて知られたくない。
砕け散ったプライド。
かろうじて残ったのは小さな羞恥心だけだった。
喘ぐ吐息が自分のものとは思えない程に甘い。
万丈目に知られたくない。
こんな浅ましい自分の体。
万丈目に感じている顔を見られないように顔を横に背けた。
そんなオレを見て、万丈目が薄く笑った。
止まった腰が再度ゆっくりと動き始める。

「はぁ・・・はぁ・・・んく・・・ぅ」
「じゅう・・・だい・・・。十・・・だい・・・」

濡れた音が部屋中に響き渡り、オレたちの体温が混ざり合う。
徐々に万丈目の動きが早くなっていく。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・くぅ・・・ッ!」
「あ・・・や・・・んん・・・あぁぁぁ・・・ッ!!」

真っ白なスパーク。
体の中で万丈目が大きく震える。
ジワリと熱い飛沫が体の中で広がっていった。

「十代・・・。大丈夫・・・か?」

ズルリと万丈目が胎内から出ていく感触に体が震えた。
甘い吐息が口から漏れる。
何だろう、この感覚。
オレは、万丈目に無理やり押し倒されたのに・・・。
気だるく横たわったまま、オレは万丈目を見る。
万丈目はオレの顔から気まずそうに視線を逸らした。

「すまん・・・。本当に・・・、すまない・・・」
「謝るくらいなら・・・、何で・・・」

さっきまでの荒々しさが形を潜め、万丈目は泣きそうな顔でオレに謝ってくる。
何故かそれが悲しかった。
犯された事よりも今の万丈目の言葉の方がオレを傷付ける。

「万丈目・・・」

呼び掛けるとビクッと肩が動いた。

「すまない・・・。俺・・・、十代が・・・誰かのものになるなら・・・、いっそ・・・って。そう考えたら、もう何が何だか分からなくなったんだ」

泣きそうに顔を歪めながら万丈目はオレに謝罪の言葉を伝えてくる。

「好きなんだ・・・。十代が、好きで、欲しくて・・・。どうしようもなかった」

好き・・・。
何度も耳元で囁かれた言葉。
何故、男みたいなオレに?
理解が出来ない。
だが、それ以上に自分の感情が分からなかった。
万丈目に”好きだ”と言われる度に胸が締め付けられる。

「お前は・・・、自分の気持ちを押し付けるだけで・・・オレの気持ちなんて、どうだって良いのか?」
「・・・!あ・・・、う・・・。・・・すまん」

万丈目の視線がオレを見ない。
ただ、それだけの事が苦しくて辛い。

「違う・・・。謝って欲しい訳じゃ・・・!」
「十代・・・?」

だるい体を起き上がらせると妙な異物感と鈍い痛みが襲ってきた。
起き上がった状態のまま痛みに体を縮こませる。

「十代・・・、大丈夫か」

万丈目が気遣うように肩に触れてきた。
その腕を掴み、無理に引き寄せる。
万丈目の目を見て話したい。
ただ、それだけだった。

「万丈目は・・・、オレの気持ちは聞かないのか・・・」
「え・・・?」

ボソリと、小さく呟く。
万丈目が信じられないと言うように、顔を上げた。

「何て・・・、言った?」
「まだ・・・、お前の事を好きかどうか・・・分からない。でも・・・、オレは・・・」

体中の節々が痛む。
未だに体の中から出てくる万丈目の残骸がひどく気持ち悪い。
でも・・・

「こんなに酷い事をされても、オレはお前を嫌いにはなれないんだ・・・」
「じゅう・・・だい・・・」

万丈目が驚いたように、目を見開いた。

「何でだと・・・思う?」

オレが訊ねるとさっきまで蒼白だった万丈目の顔が徐々に赤く染まっていく。

「え・・・、あの・・・うわッ・・・。待てよ・・・、十代・・・。それって・・・」

分からない、と頭を振る。
それでも、万丈目は嬉しそうに笑った。

「すまん、俺・・・、無茶な事をした・・・。だが・・・、これからは・・・」

この胸のもやもやが恋愛感情なのか、それとも違うものなのか・・・。
分からない。
それでも、万丈目の笑顔を見るだけで嬉しいと感じるのは・・・。

「これから、俺は十代に好きになってもらえるよう頑張る」

万丈目がオレを抱き締めた。
お互いの肌が密着して気持ち良い。
これって、恋愛感情なのか・・・?
オレは、万丈目の肩に顔を埋め、目を閉じた。





あの後、万丈目がオレの体を甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
嫌がるオレを押さえつけ、万丈目が出したものの処理をする。
白濁の液体の中に鮮血が混ざっているのを見て顔をしかめると、万丈目が平謝りをしてきた。
偉そうな万丈目を常に見ていただけに、この変わりようには笑ってしまった。
処理後、二人でシャワーを浴びた。
熱い水が降り注ぐ中、万丈目が触れるだけのキスをしてきた。
オレは、ゆっくりと目を閉じて万丈目の唇を受け止めた。





「そろそろ・・・帰る事にする。カイザーの件は、俺たちGXに任せておけ」
「あぁ・・・」

”電話”の件もな、と万丈目が笑って言う。
オレはだるい体を壁に預けながら万丈目に手を振る。

「また・・・な」

顔を真っ赤にして、だが嬉しそうに万丈目は頷く。

「あぁ、また・・・な」

掠め取るように万丈目が唇を押し当て、次の瞬間にはドアが閉まった。
また・・・な。
万丈目の触れた唇に指を当て、オレはそっと笑みを零した。





万丈目を見送った後、オレは携帯に残されている筈のメッセージを聞く事にした。
携帯を出して、メッセージセンターに問い合わせる。
平淡な女性の声が流れた後、翔の男にしては高めな声が聞こえた。

『あ、アニキー?万丈目君からお兄さんが行方不明だって聞いてると思うけど、見つかったっスよー』

え?

『お兄さん、実は自分の病室にいないだけで、ちゃんと病院内にいたんだって。怪我人なんだから大人しく療養しておけばいいにのにねー』

は?

『何日も見つからなかったなんて凄いよね。お兄さんって本当に良く分からない人っス。色々な意味で見る目が変わったよ』

中途半端な所で翔のメッセージは終了した。
オレは急いで、万丈目の携帯に電話をする。

『どうした』

電話口から万丈目の少し緊張した声が聞こえた。

「おい、どういう事だよ!カイザー見つかったって・・・」
『す、すまん・・・。そのようだ・・・。俺も今聞いた所で』

散々オレを混乱させた諸悪の根源は、焦ったように弁明してくる。
マジかよ!
オレをあれだけ混乱させて、しかも体まで奪っておいて・・・!
口で謝るだけじゃ許せない!

「そのようだ・・・で済むか!お前、出るトコ出たっていいんだぞ!そんでオレは勝つ!」
『本当にすまないっ!』
「謝って済むなら、警察もGXも必要ないんだよ!」

矢継ぎ早に言葉を捲くし立てる。
反論の余地は与えなかった。

『あー!分かった!機嫌を直してくれるなら何でもしてやる!何して欲しい!?』
「オレにあんな事を無理やりした罪は重いんだからな!罰として、エビフライ定食をこれから毎日一生奢れよ!」
『一生ってそれ告白・・・!?い、いや、ちょっと待て!俺たちGXの安月給を忘れたのか!今月はヤバいんだ!』

電話の向こうで慌てる万丈目の声が聞こえた。

「知るか!・・・じゃあな!」

オレは言いたい事だけを捲くし立て、一方的に電話を切った。

「まったく、万丈目のバカヤロウ・・・」

オレを混乱させて、感情を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して・・・。
はた迷惑な奴。
それでも、憎めない。

「なんでだろうな、万丈目。オレ、お前の事・・・好き・・・なのかな」

この感情の名前は・・・